act.15 愛と恥辱と死のゲーム

「俺はこの街の王よ!カリブだ…よろしくな、一見さんよ」

突然カジノに現れた謎の男…カリブ。何かが起こりそうな予感がする。カリブはジーザスを前にして笑みを浮かべていた。

「……そうか、お前が有名なヴァレリアスのカジノ王か」
「知ってんのか、俺を?お前ら、外国人だろ。どこから来たんだ?」
「ヴェルヌ……いや、ブリタナだ」
「!そうかお前、あのオズボーンファミリーの奴なのか」

カリブがすぐさまジーザス達をオズボーンファミリー関係者だとわかったのはブリタナという地名からだった。ブリタナはオズボーンファミリーが治める島として有名。そこに住んでいるのならばオズホーンファミリー関係者以外ありえない。彼らを見てもただの住人には見えない。ジーザスは若くしてどこかマフィアの威厳というものを持っていた。

「オズボーンファミリーの奴がこんな寒い土地まで来るとは。ただカジノに来た…ってわけじゃなさそうだなぁ?」
「……俺は今仲間を探している。このあたりで良い人材を調達しようと思ってな。……裏のゲームとやらの参加者を見てえんだよ。参加させてもらおうか?」
「へえ、仲間探しのためだけに危険な真似をするとはな。……面白ぇ。ようし、わかった。オーナー権限でお前らをもう一つのゲームホールに案内してやるよ。そこでゲームに参加してもらおうか。勝てば……そうだな、俺がお前の仲間になってやる」
「!?」
「ジーザースー!!!ダメー!!!ソイツはダメー!!!」
「ソイツスゲェ危険な匂いがするって!ダメだって!ソイツはヤバいってー!!!」

ムイとルークがひたすら危険信号を訴えるがジーザスは聞く耳を持たない。

「……お前が、仲間に?…成る程な」
「俺はこのヴァレリアスほぼ全てのカジノを取り仕切ってる。それ故に裏の情報とかもかなり入って来るぜ?お前らの役には立てるはずだ。結構つまんねぇ毎日だったからなぁ。面白くなりそうだ。だが俺は俺が認めた奴にしか従わねぇ」
「…それで、ゲームに勝利したらか…」
「そうだ。ただし地下室のゲームに参加できるのはお前と……そこのねーちゃんだ」
「えっ……私?」

カリブが指名したのはジーザスとルーナだった。突然呼ばれ、ルーナはびくりと驚く。

「待てよ…あの女には危ない真似はさせねえ」
「ここにいても安全だとは思えないがな?」

そう言うカリブの目線を追うと、スタッフ達が懐から銃を出そうとしている姿があった。ルーナをこの場に残せば撃たれるかもしれない。ジーザスが迷っているとルーナが側に寄ってきた。

「…私、やるわ」
「ルーナ!」
「大丈夫よ…私に協力させて」
「……っ」
「……決まりだな?」

ジーザスはルーナを守る事を決意。それを汲み取ったカリブが二人を連れ、スタッフルームの側の階段を降りていく。ムイとルークは地上ホールのスタッフ監視のもと、残る事になった。半ば泣きながら彼らは二人を見送っていたが…。
地下室へと降りて行った三人。そこでジーザス達が見たのは広い地下空間。黒を基調とした部屋の中、明らか裏社会的な容姿の人々がいた。顔に傷がある男から、露出度の高いドレスを着た女性、腰に銃を装備している男……ここは関係者だけが入れる地下カジノ。ルーナは怯えたようにジーザスの腕を取り、それに気付いたジーザスがルーナの手を優しく握る。

「ここが俺様自慢の裏カジノよ!おおっと、誤解すんなよ?ここではヤクとか違法なモンはしちゃいねえからな?あくまでも政府公認、ただこのカジノに来る奴は犯罪者かもしれねえが店側はそこまで把握しちゃいねえ…ってことさ」
「……あくまでも客は犯罪者だろうが一般人だろうが選ばねえってことか…」
「そういうことだ。よし、こっちに来な」

カリブに案内されて向かった先にはビリヤードの台のような黒い台が置いてあった。その瞬間、大柄な黒服の男二人にジーザスが捕まる。

「!?」
「な、なにすんだテメェら!!!」
「…このゲームは『Love&Death』。男女のペア専用ゲームだ。男が台に仰向けで固定された状態で、女がその上に跨がる。そして男のまわりには13枚のカードが伏せられて置いてある。それを女が引いて行き…カードが赤だった場合はセーフ、黒だった場合は引く度に男の衣服を脱がせていくんだ」
「!!?」
「はぁ!?なんなんだよそのあり得ないルールは!!」

ジーザスの反論を無視してカリブはルールの説明を続ける。

「黒のカードの量は5枚。残りは赤8枚。セーフの方が確立は上って訳だ。5回勝負で、赤のカードの方が多ければ勝ち、黒が多い場合…その時は…この公衆の面前でヤってもらう」
「え……っ」
「テメェ…そんな無茶苦茶なゲームあるか!!」
ジーザスが男達を振り切ってカリブに殴り掛かろうとするが両腕を男達にがっちりと固められて動けない。ルーナは驚きの表情を隠せなかった。

「さあどうする?これがウチの一番の名物、愛と恥辱のゲーム!今までに何人ものペアがみんなの前で辱めを受けてきた!!そんな危険なゲームにチャレンジしないとか言わないよな?天下のオズボーンファミリーボス!!」
「……っ!」
本来ならそこまで言われて黙っているジーザスではない。しかし、今回のゲームはあまりにも危険。負けたら大衆の前でルーナと性行為をしなくてはならない。まだ恋人でもない、そして一般人のルーナにそんな辱めを受けさせるわけにはいかないのだ。だが、ルーナはしばらく押し黙った後、真剣な眼差しでカリブを見た。

「…やるわ、私」
「!!ルーナ、何言ってんだ!!」
「……売られた喧嘩は買わなくちゃ、でしょう……」

そう言うルーナの肩は僅かに震えていた。しかし、その目つきはもう決意を決めたようで。カリブはニヤリと笑った。

「良い度胸だ、お姉ちゃん。好きだぜ、そういう目……よし、ゲームスタートだ!歓迎するぜ、ジーザス・オズボーン!!」

いつの間にか台の周りに集まった客達が歓声をあげた。このゲームは滅多に参加者がいない。本来、勝てば大金が手に入る訳だが、負けた時の恥辱が恐ろしくて誰も参加しないのだ。だからこそ今回、ゲームが見れると客達は嬉しげだ。黒服の男二人がジーザスを台に無理矢理寝かせ、両手足を錠のようなもので固定する。全く身動きが取れない無防備な状況にジーザスは歯を食いしばる。

「さ、お姉ちゃん。コイツに馬乗りになりな」
「…………っ」

既にこの体勢が辱めのようだ。ルーナは仰向けに寝るジーザスの上に本当にゆっくりと跨がる。

(こ、これは……やばいだろ……っ)

ジーザスも頬を真っ赤にしてしまう。下から見上げるルーナの不安げな表情、潤んだ瞳、細い腰…これは考えたくなくても危ない思考をしてしまう。この体勢もゲームの参加者の不安と恥辱を煽るシステムの一つなのだ。

「……ジーザス……」

蚊の鳴くような声でルーナは不安が入り交じった表情で小さくジーザスを呼ぶ。内心本当に不安で不安で仕方ないのだろう。ジーザスははっと我に帰り、ルーナを安心させるように言った。
「大丈夫だ……落ち着け、ルーナ。平気だからな」
「………うん…」

小さく頷くルーナ。すると、カリブが叫ぶ。

「よし、カードを配置するぜ!カードは13枚、死の数だ。さあ好きなカードを選びな、お姉ちゃん。ああ、男と相談して決めてもいいぜ?」

黒服の男がジーザスの寝る台の至る所にカードを伏せて並べていく。ジーザスの顔付近、腕付近、足下付近等…。ルーナはどれを選ぶかで困惑した。チャンスは5回。そのうち、3枚が黒だったらそこで勝負は決まってしまう。 「……ジーザス、ど、どうしたらいいの……」 「……とりあえず、赤の方が多いんだ…つまり半分以上は赤……赤が3枚引けば勝ちなんだ。……俺の左腕のとこのやつ」 「こ、これ…?」 ルーナはジーザスの左腕の関節部分上に置かれた一枚のカードを指差した。 「ああ、それ………とりあえず、それ…取ってみてくれ」 「え、ええ……」 ルーナがジーザスに言われたカードをゆっくりめくっていく。すると……カードの裏面は、赤く燃えるように咲く赤いバラの絵が描かれたカードだった。

「……!赤…赤よ、ジーザス」
「…はぁ、なんとか一枚目成功か」

観客達が再び歓声をあげた。まず、一枚目は赤。セーフだ。カリブはそんな様子をにやつきながら見つめる。そして二枚目を選ぶ時。

「今度はルーナが選んでみてくれ」
「え……私?」
「ああ、大丈夫…俺がついてるから」

こんな時だからこそジーザスは微笑んだ。それがルーナを安心させると信じて。ルーナはジーザスの顔を見て、小さく、そしてぎこちなくだが笑みを浮かべ、ジーザスの頭の右横に置いてあるカードを恐る恐るめくる。それは、またもや赤いバラのカードだった。

「!やった……」
「…よし、この調子だ」

二枚続けて赤を引いた事で二人は少しずつ安心してきたようだ。それと比例するように観客の熱は冷めていく。彼らはギリギリのゲームが見たいのだ。これで三枚目も赤だったら完全に興醒め。そして三枚目の時。一枚目、二枚目よりも落ち着きながらルーナはカードを選ぶ事が出来た。

(これで赤を引けば私達助かるのね…。考えてみれば…そうだわ。赤は8枚もある…勝算は十分にあるじゃない。恐れを抱く心こそが真の敵…迷いが命取りって訳ね)

ルーナはジーザスの右腕付近のカードを、今度はためらいも無く引いた。だが、その瞬間ルーナの表情が凍る。

「?ルーナ、どうした……」
「……黒…」
「えっ…」

ルーナの引いたカードには黒いローブの死神の絵が描かれていたのだ。観客は歓喜に叫ぶ。これでこそこのゲームだ。カリブの笑みが一層強くなった。

「ついに引いたな。死を司る死神!お前らを恥辱の地獄へと突き落とすカードさ」
「だからなんだってんだ!一枚引いたくらいで!三枚引かなきゃいい話だろ。大丈夫だ、ルーナ、引くんだ」
「……ええ」

雲行きが怪しくなってきた。そして不幸とは続くもの。ルーナは次にジーザスの左胸付近に置いてあったカードを引く。それは無惨にも黒だったのだ。観客の声は次第に大きくなる。ついに後戻りは出来ない状況。次に引いたカードで全てが決まる。

「ジーザス…!私…っ」
「落ち着くんだルーナ、落ち着け…大丈夫、次赤を引けばいいんだ…焦りが油断を生む…落ち着くんだ…」
「……っ」

ルーナはもう既にパニック状態で半泣きだった。ジーザスは必死にルーナを宥める。カリブはそんな様子を眺めて楽しんでいる様子。

(さあ、世界一のオズボーンファミリー…この状況、どう乗り切る気なんだ?)


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