act.17 ウェポンテイマー

突然ジーザス達の前に現れた謎の女性、ホミリー。彼女はジーザスとムイの幼なじみなのだという。

「久しぶりね、アンタ達」
「ホ、ホミリー!?なんでお前がここにいるんだよっ!?」

本当に驚いた様子のジーザスとムイ。未だホミリーという女性が何者か知らないルークがジーザスにたずねた。

「な、なあこいつ…お前らの幼なじみってマジ?」
「ああ…こいつはホミリー。俺とムイの幼なじみで、ムイと同じように親父さんが先代オズボーンファミリー幹部でさ…物心ついた頃から三人一緒だったんだよ」
「ホミリーの親父さんは武器商人でさ、でも人を守るための武器を扱ってた。ホミリーが十五歳の時、親父さんの仕事でどうしてもファミリーを離れなくちゃいけなくなってよ。それ以来俺達は会ってなかったんだ…けど…」

ムイが言い終わるとホミリーは大きく頷いてジーザスを見た。

「そうよ。あれから九年。私は強くなったし、女も磨いたわ。……ジーザス、これで付き合ってくれるわね!?」
「!?」
「はあっ!?」

まさかの発言に一同が凍り付く。本当に突然だった。ホミリーは確かにジーザスに付き合ってくれと言った。当のジーザスが一番凍り付いていてルーナは呆気に取られていた。

「……何言ってんだお前?」
「約束したじゃない。ブリタナを離れる時…泣く私にアンタは言った。『もっと強くなって、美しくなって…俺にふさわしい女になったその時は、俺の女にしてやるから』って」
「……」
「おまっそんなこと言ったのか!?」

ムイも知らない新事実。なんとジーザスは別れの間際にホミリーに交際をほのめかす発言をしていたという。だがジーザスの硬直した顔は直らない。どうやら本人は忘れているらしい。

「私、それが嬉しかったのよ!だからずっと、ずっと私は……必死に強くなったし、美しくなろうと髪も服も変えて……」

最後の方はほとんど消え入りそうな声だった。彼女は本気で九年間ジーザスを想っていたのだろう。ジーザスは返答に困った。

「…悪い、ホミリー…俺は覚えてないんだ…」
「………っどういうこと……あの時約束していたじゃない!」
「…ほんと、悪い…」

しばらく全員の間に沈黙が続いた。そしてホミリーは強い目つきでルーナを見た。

「!」
「アンタ…一体なんなのよ?」
「えっ…わ、私は」

ホミリーから見れば自分の代わりに見えたかもしれない。見知らぬ若い女がジーザスのそばにいる…。そしてルーナのほうは上手く返事ができなかった。自分が何なのか、それはルーナ自身もわからなかったからだ。

(私は今…ブリタナにいる。けれどそれは人質…よく考えても客という立場…でも私は…看守……一体…何なの…?)

するとジーザスがルーナの肩を抱いてホミリーをまっすぐと見つめる。

「…ホミリー。俺は今…このルーナのことが好きなんだ。まだ付き合っちゃいねえが……それでも俺は、コイツを愛している」
「!ジーザス…」
「……ルーナ、って言ったわね。……ジーザスは私よりアンタを選んだって、わけ……一体何者なの……」
「ああ、ルーナは脱獄した時の看守で…」
「バカ、ムイ!!それ言うなって!」
「空気読め!!!」
「……生憎ね、全部聞こえたわよ」

ムイの空気の読めない一言をしっかり聞き取っていたホミリーの声が今まで以上に低いもので全員がびくりと震えた。すると一気に彼女は溜まっていた感情を溢れさせた。

「どういうことなの!?看守って!!ジーザスが捕まった時…私は助けに行こうとした。でもアーロンさんに止められたわ!私は心配で心配で仕方なかった……それなのに…アンタは…そこの看守と………っ!!」
「ホミリー、わかってる…それは十分にわかってる。受け止める……俺は、それでもルーナを好きだと」
「……っ!!」
「……ホミリー、さん……私は……」

おずおずと口を開くルーナ。しかし何を言うべきか迷い、次の言葉が出てこない。その瞬間だった。

「オズボーンファミリー!!待て!!!」

そこに追いついてきたのは先程襲撃してきたヴェルヌ政府の役人だった。煙を抜けてやってきたのだろう。

「ちっ、話は後だ!」vbr>
一番最初に反応したのはルークだ。拳銃を抜き、役人達を狙うが彼らは素早い動きで銃弾を避ける。カリブも銃を放つが同様に避けられてしまう。

「ちいっ、あいつらすばしっこすぎる……」
「下がってなさい、アンタ達」

カリブの言葉を遮ったのはホミリーだった。前に出たホミリーはいきなりスカートの中からマシンガンを取り出し、構えたのだ。

「!!!?」
「ど、どっから出したんだ!!!」
「企業秘密よ!!!」

叫んだ瞬間、ホミリーはマシンガンを撃ちまくった。拳銃とは違うその威力にさすがに役人達も避けざるを得ない。ホミリーは間を置かずに今度は背負っていたリュックからバズーカを取り出したのだ。

「はああっ!!?」
「だからどっから出してるんだって!!!」

カリブやルークのツッコミを無視してホミリーは次々に銃器を取り出して役人達を撃退していく。その姿を見ていたルーナは感じた。

(私は……その時思った。……強くて気高く裏の世界で生まれ育ったホミリーが、もしジーザスのそばにいたら……彼女は本当に彼にふさわしい女性だと…………)

しばらく攻撃をしていたホミリーだが、役人達に傷を負わせ追ってこない程度に叩きのめした後、言った。完全に殺さないあたりがオズボーンファミリーの仲間である証拠。

「これでしばらくは平気ね!さっさとブリタナに戻るわよ!!」

当たり前のようにそう言うとホミリーは走ろうとする。が、ジーザス達が驚いた顔で立ち止まっているのを見て振り返る。

「なにやってんのよアンタ達!帰るわよ!」
「…帰るってホミリー、お前もブリタナに来るのか?」
「?当たり前じゃない!」
「だってお前ヴァレリアスで仕事とかあるからいたんじゃねえのか…」 「アンタ達に再会して訳の分かんない奴らが襲ってきたなんて現状に遭遇したらほっとくわけにはいかないわ!私が見張ってやんなきゃアンタ達が心配よ!それに…」

ホミリーは再びきっとルーナを睨んだ。

「……ジーザスを振り向かせるチャンスを絶対手に入れてやるんだから!!」
「……」

どう反応して良いか分からずルーナは戸惑いの表情を見せた。ジーザスは内心頭を抱える。どうやら今後も彼の悩みは尽きないようだ。


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