act.22 新たな敵

オズボーンファミリー顔見せのパーティーの夜、事件は起きた。『支配』の体質者にして凄腕の殺し屋、ダルクが現れ、今この間もルーナに襲いかかっていた。
ダルクの支配の能力は全てを操る。体質者という存在…自分自身がそうだと知ったばかりのルーナに敵う相手ではない。ルーナの氷の槍を操ったダルクによって、彼女自身の氷の槍が迫る。ルーナは思わず目を瞑った。その瞬間。

「ルーナ!!」

聞き慣れた声と共に、ガツンッという固いもの同士がぶつかる音が響く。ルーナが目を開けると、先程の立派な黒い服のままのジーザスが拳銃の銃身で氷を弾き返していた。

「!ジーザス!」
「大丈夫かルーナ!…なんなんだテメェ!!」

ジーザスは強い眼差しでダルクを睨みつける。するとダルクはにやりと笑った。

「ああ、お前がジーザス・オズボーンだな。ようやく出てきたか」
「俺に用があったんだろ…ルーナを巻き込みやがって!!」
「テメェが女に腑抜けになってるって聞いたからな…テメェの弱点はその女だ」
「テメェ!!」

激昂するジーザス。するとその騒ぎを聞きつけてルーク達も走ってきた。

「おい、どうしたんだよジーザス!」
「ってソイツ、なにもんだよ!」

驚くルークとムイ。

「俺を殺しに来た刺客だ…そのくせルーナを襲おうとしやがったんだ」
「俺の仕事は、ジーザス・オズボーン。お前を殺すことだ。そのために最良な手段がその女を利用することなんだよ。…しかし噂は本当だったんだな。天下のジーザス・オズボーンが看守に惚れたってのは…」
「っ…だからどうした…」
「憎い相手ほど愛してしまえば止まらない…ってか?ハッ、オズボーンファミリーのボスとしてそんなんでいいのかよ」

ダルクは淡々と言い放つ。その言葉を聞いてジーザスが拳銃をダルクに向けた。

「ここから生きて出られると思うなよ」
「ふっ…どうだかな」

次の瞬間、ダルクは素早い動きでジーザスに襲いかかる。手に持つナイフは小型だが刃先がカーブを描いており、切れ味の鋭そうな光を放っている。ジーザスはあまりの素早さに少し驚きつつも避け、時に銃身で攻撃を弾き返していく。

「ジーザス!」

ホミリーがすぐさまドレスの裾から太腿に巻いた拳銃を取り出し、ダルクに狙いを定める。しかしダルクがホミリーに手を向けると、いきなりホミリーの拳銃が弾け飛んだ。

「きゃっ!?」
「何しやがったんだアイツ!」

カリブがダルクを見る。

「あの男…支配の体質者って言ってたわ!」
「ハァ!?体質者!?希少な存在って言ってなかったか!?」

ルーナの言葉にムイが驚く。確かに体質者という存在を知ったのは最近だし、世界でも稀な存在だと聞いていた。この短期間でルーナ、ダルクと二人もの体質者に出会うなんてことがそうそうあるだろうか。

「お前らが知らないだけだ。体質者は裏では山ほどいるんだぜ」
「なんだと…」

カリブが銃を向ける。その瞬間、いきなり背後から走ってきて、軽やかな動きでルーク達を飛び越え、ダルクの隣に誰かがジャンプしてきた。まるで忍者のよう。

「!?」
「アイツ!さっきホールにいた変な奴よ!」

ホミリーが叫ぶ。その男は先程ホミリー達がホールで見かけた奇妙な動きのエイジア風の男だった。

「遅いぜ、レン」
「ごめんねぇ〜だってここの料理ほんとに美味しいんだもーん」

ダルクはのらりくらりと喋る男と会話する。

(コイツら仲間なのか…じゃあ、アイツも体質者か…?)

警戒を強めながらジーザスは考えた。現れた男は目が細く、黒い短髪でにこにこと笑っている。だがその笑みが逆に恐怖を感じさせた。

「はじめまして、オズボーンファミリー!ボクはレン、ダルクのお仲間だよー!」

きゅぴん☆という不可思議な効果音を出しながらレンは明るく自己紹介。ジーザスは銃をレンに向ける。

「テメェも体質者なのか…」
「うん、そうだよーボクは『反射』の体質者なんだ。すべての攻撃を撥ね返すことができるんだぁー」

にぱ、とレンは微笑んだ。が、ジーザス達はその能力に耳を疑う。

「攻撃を撥ね返す…!?」
「そ、そんな能力インチキだろ!!」

ルークとムイは思わず叫んだ。『支配』に『反射』…まるで無敵だ。こんな相手に勝つことはできるのか。すると、その場に部下が二人走ってくる。

「ボス!!」
「!侵入者ですか!?」
「!お前ら…!」

ボスや幹部たちがいないと気付いた部下たちが駆け付けたのだ。部下たちは銃を構え、ダルクとレンに放つ。その時、レンが手のひらを部下たちに向けると…

キンッ!!!

「!?」
「ぐわっ!」

銃弾が透明な壁のようなものに跳ね返され、部下の一人の足に当たった。

「銃弾を弾いたのか!?」
「そう、これがボクの『反射』の力だよ…どんな攻撃もボクには当たらない!」

相変わらずにこにこと微笑みながらレンは言い放った。無事だった部下は戸惑いながらも再び銃を放つ。今度はダルクが部下を見て手を掲げると、部下の拳銃が暴発し、一気に爆発した。

「!!!」
「きゃっ!!」

大規模な爆発ではなく、部下は軽い傷で済んだが衝撃で気を失ったらしい。目の前で起きた事件にジーザス達は驚きを隠せない。

(なんて恐ろしい力だ…こんな奴ら、倒せるのかよ…!)

思わずぞっとするジーザス。その一瞬だった。ジーザスが隙を見せた時、レンがジーザスを飛び越えて素早い動きでルーナを抱え込んだ。

「きゃ…」
「ダルクー!お姫様回収したよー!」
「!!テメェ!!!ルーナを離せ!」

ジーザスがレンに発砲するが今度は反射を使わず、軽く避けた。そしてそれを確認したダルクが懐から球体のようなものを出し、地面に叩きつけると白煙が撒き散らされた。

「!ルーナ!!ルーナ!!」
「ゴホッ、アイツら逃げやがったぞ!!」
「ちくしょうっ…」

煙が晴れた時にはダルクもレンも、そしてルーナも消えていた。
ジーザスは膝をつき、愕然とする。

(何やってんだ俺は…俺は…ルーナを守れなかった…!あんな連中に…負けた…っ!ルーナ…!)

ルーナを守ると誓った。その結果がこれだ。ジーザスが自責の念にかられているとホミリーが歩み寄ってきた。

「…なにやってんのよ」
「ホミリー…」
「今すぐあいつらを追いかけるのよ。立ちなさいジーザス」
「!?」
「えっ、お前あいつらの居場所わかんのか?」

きょとんとムイが呟く。すると、ホミリーはこれまたドレスの裾をめくり、どこからか小さな携帯電話のようなものを取り出した。

「なんだそれ…」
「バカルーク、発信機追跡装置に決まってるじゃない」
「いや普通知らねえから!」
「さっき煙玉を出した時にあのダルクとかいう男の背中につけといたのよ。まあ服を捨てられたらおしまいだけど…イチかバチかの賭けに出ない?」
「……ああ、ありがとうホミリー…」

追跡装置の液晶画面には赤い点が移動している様子が表示されている。屋敷を出て南東に向かっているようだ。

「…ムイ、カリブ、こいつらを頼む。ドクターを呼んで手当てしてやってくれ。あと参加者にはうまく言いくるめておいてくれないか」
「ああ…行くんだな」
「ルーナを助けてこいよ、絶対」
「おお。…ホミリーは残…」
「絶対いやよ」
「……ついてくるってか?」
「当り前じゃない。私の武器が通用しない相手なんて許せないわ。絶対蜂の巣にしてやるんだから」

殺気すら感じるホミリーの態度にジーザスはため息をつく。しかし彼女のおかげでルーナを追えるのだ。ジーザスは窓から月を見上げ、決意を新たにした。


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