act.23 共同戦線

突然始まった、オズボーンファミリーと殺し屋ダルク達の共同戦線。突然襲って来た刺客達から逃げるため、ルーナ、ダルク、レンの体質能力を利用する。
ジーザスは未だダルクを警戒しているようだった。勿論、ルーナとて完全に信用してはいない…だが、先程の会話からしてダルクはルーナに本気で惚れた(そこもはっきりしないが、殺しはしないようだ)らしいので、ルーナとしては協力して脱出したかった。

「…チィッ!!」

悔しげにジーザスが舌打ちをする。

「…わかった、一時休戦だ…ここから脱出するぞ」
「さっさと決めろよバカ…どのみち俺達と協力しねえとお前らはここから出られなかったんだからな」
「テメェッ…」
「ジーザス落ち着いて!とにかく。私達が銃弾を防げばいいのね?」

ルーナが止めなければ殴り合いにでも発展しそうな雰囲気だったジーザスとダルク。ルーナはレンと顔を見合わせ、二人で能力を使うことを確認。

「ああ。レン。できるな」
「いつでもオッケーだよぉー」
「じゃあ、行くわよ、みんな」

互いに顔を見合わせた六人。その間も刺客の銃撃が鳴り止まない。そして一気に六人が物陰から走り出したのを見た刺客達は一斉射撃を始めた。 それと同時にレンが能力を使い、弾を反射させていく。だが全ての銃弾を防ぎきれず、いくつかが六人に向かって飛んで来るのを、ルーナが氷の壁を作って防ぐ。銃弾は氷の壁にめり込んだが、六人は無傷だ。そんな尋常では考えられない光景を走りながら見ていたルークは唖然としていた。

「スゲェ、弾を寄せ付けねぇ!」
「体質者…なんて奴らなの…」

同じように走っていたホミリーも同じように走りながら呟いていた。ただ一人、ジーザスだけは何かを考えているように黙りながら窓へ向かい走るだけ。そんな彼の様子に気付いていたのは、ダルクだけだったが…。
やがて窓に近付くと一行は衝撃に備え始めた。

「飛び降りるぞ!」

ダルクの声と共にジーザスは咄嗟にルーナを抱え込むような体勢になった。窓を破れば少なからずガラスの破片を浴びることになる。少しでもルーナを傷つけないためだ。
まずダルクが窓を体で破り(彼はこういった経験に慣れているのか、傷一つ作らなかった)、次にジーザスとルーナ、レン、ホミリー、ルークの順で飛び降りる。
途端に彼らは重力に従い真下に落ちる――と思いきや、ダルクは窓を破った瞬間に目の前にあった大きな木に向けて右手を差し出すような仕草をした。

「橋になりやがれ!!」

ダルクがそう叫ぶと、静かに立っている大木がまるで生き物のように動き始めた。何も知らない人間が見たら驚きの余りに叫ぶような光景。真夜中に大木が動き出す…まるで一昔前のレトロゲームに登場するモンスター等に出てきそうだ。
木はうねうねと動き、枝が伸びていく。それは、落ちていくジーザス達の足下に伸び、草と絡み合ってそれは橋のような形へと変化していった。
「!?これは…」

思わずジーザスが声に出して驚きを示した。大木の橋はジーザス達を無事に着地させ、地面に下ろすと再び元の大木に戻ったのだ。

「すごい…ダルク…」
「すごいだろ、ルーナ。俺の『支配』の能力は。だから俺とお前で最強の夫婦に…」
「テメェ、黙ってろよ!」

しばらく呆然としていたジーザスだったがダルクがルーナを再び口説き始めた声ではっと正気に戻り、銃を突きつけた。途端に雰囲気が一気に重くなり、再び争い合う気配がした。

「…テメェ、人に助けてもらっておいて銃突きつけるたぁ…なめた真似してんじゃねえぞ」
「元々お前はルーナをさらい…俺を殺しに来た奴だ。易々と帰すと思ってんのか」
「ジ、ジーザス…」

ルーナは止めようとするが二人の剣幕にどうすべきかわからず二人の顔を不安げに見ている。ルークとホミリーも、そしてレンもあまりのオーラに手出しすることができずにいた。
しばらくその状態が続いていたが落ちて来た窓辺から刺客達の声が聞こえ、ルーナははっとし、二人を引き離す。

「ほ、ほら、とりあえず逃げなきゃ!」
「………」
「………」

互いに睨みつけたまま、戦闘態勢を解除する二人。一行は追っ手から逃れる為、急いでその場を後にして屋敷へ戻る。オズボーンファミリーの屋敷に戻ってしまえばそう簡単には手を出せはしないだろう。
刺客達はジーザス達が屋敷へ帰ったのを見て、すぐさま彼らのボスに連絡をよこした。

「ボス!殺し屋ダルクがオズボーンファミリーと共に逃走しまして…屋敷に逃げ込みました」
『ちっ!役立たずが!仕方ねぇ…今は退け!』

電話口で依頼主の男は悪態をついた。とりあえずは、しばらく追っ手は手出しできないようだ。



未だオズボーンファミリー邸では何も知らない客達はパーティーの続きをしている。ムイ、カリブと部下達だけがジーザス達の帰りを待っていた。

「!ジーザス!ルーナを取り返したんだな…ってぇ!殺し屋ダルク!?なんでここに!」
「刺客に襲われた…それで協力せざるを得なくなっただけだ」

驚くムイの質問にふてぶてしく応えるジーザス。その後ろからダルクやルーナ達がついてきて一息をついていた。

「はあーっ、やっと帰ってこれたぜ」
「で、どうすんのよコイツ?捕まえとくの?」

ホミリーがダルクを睨みつける。すると慌ててルーナがフォローしようと入り込んだ。

「ま、待って。ジーザス…あの……、ダルクとレンは…た、たぶん悪い人じゃない…と思うの……」
「………ルーナ。こいつらは俺を殺しに来たんだぞ。それにお前までさらって…」
「私は大丈夫だったし……それに脱出を手伝ってくれたわ…」

未だダルクを信用できないといった顔つきのジーザス。ルーナは振り返って今度はダルクを見ると必死に懇願する。

「お願い、ダルク。ジーザスを殺すのを止めて…私にできることならなんでもするから」
「とはいえ…俺はさっきの奴らのボスから前金をもらってるしなぁ。…どのみち、奴らからは裏切られてる。…そいつを殺しても何の得にもなんねえ」
「じゃあ…」
「だが、殺し屋ダルクの名が廃るのは避けたい。表向きにでも――お前らが奴らよりもいい条件を出した、ってことにしておく必要がある。だから…」

言いながらダルクはルーナに抱きつき、途端にジーザスの表情がカチンと凍るのを誰もが感じた。

「………テメェッ!!」
「ちょ、ちょっとダルク。離れてくれない…」
「なんでもしてくれるんだろ?」
「で、でもお付き合いはできないからっ……」
「アイツと付き合ってんのか?」
「えっ……そ、それは」

ルーナはすぐに答えられなかった。ジーザスと付き合ってはいない。告白を受けたが、まだ返事もしていない。今のルーナはオズボーンファミリーの客人だ。

「…わ、私……は…」

ルーナが返事に困っているとジーザスが割り込んだ。

「…俺とルーナは付き合っていない。ルーナはファミリーの客人だ。だが…お前がルーナを傷つけるのは――許さない」
「………フン、自分の女でもないくせに」
「…なんだと」
「わーっ!だからケンカしないのっ!!」

再び正面衝突しそうな二人を必死に止めるルーナ。どうやらジーザスとダルクはルーナを巡る以外にも根本的に性格が合わないらしい。 そんなところへ、部下のラッセルが走って来た。

「ボス、ご無事でしたか」
「!…ああ」
「そろそろパーティーが終わります。ご挨拶とお見送りをお願い致します」
「…わかった。みんな、行くぞ。…ダルク、テメェらは姿を見せるな。…逃げんじゃねえぞ」
「どのみち俺らはこの屋敷からしばらく出られねえよ。奴らがいるかもしれねえからな」

追っ手は今も屋敷を見張っているだろう。だからこそダルクとレンは迂闊に外に出られないのだ。
ジーザスはルーナ達と再び会場に戻っていった。それを見ていたレンはダルクに寄っていく。

「どうすんのさぁー、オズボーンファミリーと本気で手を組むの?」
「俺はルーナに惚れたんだ。オズボーンファミリーに手を貸すんじゃない。ルーナのために手を貸すのさ」
「ふえええー、あのダルクがねぇ」
「…不思議な感覚がした。ルーナと初めて会った時……どこか、懐かしいような」
「…前に会った事があるとか?そんなドラマとか映画じゃあるまいしー」

けらけらと笑うレンとは対照的にダルクは真剣な顔つきで考え込んでいた。



やがて、パーティーの招待客を全員帰した後、ジーザス達は着替えをし、幹部全員とルーナ、ダルクとレンを会議室に呼んだ。

「……で、今後どうするかだ」
「さっきも言ったが俺らはもう奴らに雇われてねえし、テメェを殺すつもりはねぇ。ルーナの頼みもあるしな」

頭に手を置きながらダルクは軽く依頼放棄を決めた。

「どのみち、刺客の連中がまだ屋敷の近くをウロウロしてるんだろ?だったら、俺らはブリタナを守る為にそいつらを片付けるべきなんじゃねえか?」

カリブの言うことは尤も。ダルク達を殺しに来た連中がいつブリタナの市民に危害を加えるかもわからない。今現在は部下達が総動員で屋敷の周りやブリタナ市内を警護している。

「それには、頭を叩くしかねえ。俺らに依頼をしたのは、ヴェルヌのマフィア、ドン・ゲネロだ」
「ドン・ゲネロ?」

ダルクの言葉に反応したジーザス。
ドン・ゲネロはヴェルヌにある弱小マフィアで、ボスのゲネロは小太りで外見からして悪党面している男だ。殺人、強盗をいとわず、金を得る為なら何でもやる連中としてオズボーンファミリーも警戒していた組織だ。向こうからすれば、ヴェルヌでも勢力的に強いオズボーンファミリーを邪魔に思っていたのだろう。

「奴らは性根の腐った連中だ…俺達がいなくなればヴェルヌをモノにできると思ったんだろう」
「じゃあそのゲネロって野郎どもをぶっ倒せばいいわけだな?」
「ムイの言う通りだ。…ダルク、ゲネロの居場所を吐け。隠しやがったら…」
「ジーザス、ケンカ腰はやめて…ダルク、教えてくれる?」
「ルーナが言うならな」

ジーザスに話している時とは打って変わってダルクはあっさりルーナには承諾した。

「ゲネロはヴェルヌのラングルト南にある屋敷にいる」
「警護はきっちりだよぉ〜」
「…今夜中にでもカタをつけたい。案内しろ、ダルク、レン」
「……今夜中に、な…」

ダルクは真剣な表情のジーザスを睨む。こいつは何を焦っているんだろう、と彼は考えていた。いやにゲネロを早く始末したがっているようだ。 一行はパーティー終わりですぐに戦闘準備に入ることにした。ルーナはジーザスを心配げに見つめ、時折考えていた。

(……ジーザス…ダルクを信じてくれたのかな…でも…なんだかいつもと違う…)



それと同じ頃、北国ヴァレリアスの田舎町。雪に囲まれた町のさらに町外れにある小さな民家。中には古びた外観とは対照的に、謎の液体が入ったフラスコや怪しげな機械が並び、一見して何かの研究をしているのだろうと予測できる。室内にはあまり日が入らず、ぼろぼろのカーテンの合間からわずかに月明かりが漏れていた。
そんな部屋の中で机に向かい、試験管の中の液体を振ってその変化後を見つめている一人の男がいた。白衣を着ているが、その白衣も薄汚れており、くすんだベージュ色の髪を後ろで一纏めにしている男。
その男の側に一人の女性が寄って来て別の机に置いてある試験管をのぞきこむ。男に比べ、女は若く、濃紺色がかった黒髪をポニーテールにし、ハイレグのような黒い服で白いレッグウォーマーとアームウォーマーを着用している。何より、露出された太腿は人間にしては色白…いや、どちらかといえば血色が悪いほどに白かった。ルーナの健康的かつ雪のように白い、といったものではなくまるで陶器のような白さ。
ふたりは恋人といった関係には見えないだろう。何より、男の方の背負う陰湿な空気…ネガティブそうなオーラ、というのだろうか、彼の目に見えない暗い雰囲気がそう見えさせない。

「…こっちの、反応…出てる」

若い女がそう言った。男に対して言っているらしいが、どちらかというと独り言のように聞こえるほど小さなつぶやきだった。

「……暗室に移せ。…そっちの液体は保存する」
「…わかった」

男は振り返らず、面倒くさげに口を開いた。女は言われた通りに試験管を別室に移す作業に入る。二人の間にはなんともいえない空気が漂っていた。会話がほとんど無いのだろう。男は目の前の研究とやらに熱中しているのか、まるでそれが使命かのようだった。

「……そういえば」
「………」
「…さっき、買い物しに行って町で聞いた話………カリブ・マッチが…ヴェルヌのオズボーンファミリーと一緒にいたって…」
「…………そうか」

ふたりはカリブを知っているらしい。だが男はやはり女を見なかった。

「オズボーンファミリーって…この前聞いた、四代目が看守を人質にして逃げたって奴。…その看守、知ってる?」
「…知るか。いちいち調べねえよ」
「……金髪に青い瞳の子なんだって」

その言葉に男は初めて試験管から目を上げた。しかし、しばらく互いに沈黙が続く。

「………そうか」
「…ヴェルヌには金髪青目の女の子なんて、いくらでもいるわよね………ごめんなさい」

何故か女は謝り、部屋から姿を消した。……ひとりになり、男はかけていた眼鏡を外し、小さく呟いた。

「……エリナ……」


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