act.24 夜明け




「くそっ!ダルク抹殺に失敗したのか!!」

ドン・ゲネロは自室で部下からの連絡を受け、電話の受話器を叩き付けるように切った。

「ダルクの奴…面倒な奴だと思っていたがここまでとは!あのおかしな能力はいずれ脅威になる…くそう…」

その時、ゲネロの自室の扉が思いっきり蹴飛ばされる。驚くゲネロの目に飛び込んで来たのは、自分が利用した挙げ句に殺そうとしたダルクとレン。…と、オズボーンファミリーの面々だった。

「よう、俺達を殺せなくて残念だったな」
「!?きっ貴様!!ダルク…レン…!それに…ジーザス・オズボーンだと……!?」

元々、ゲネロはダルク達を雇い、ヴェルヌおよびブリタナを中心に世界で勢力を持っているオズボーンファミリーの現ボスであるジーザスを殺させた後、その力に恐れを成してダルク達を始末する手筈だった。だがそれは失敗し、挙げ句の果てにそのダルクとジーザス達が手を組んで報復しに来た。驚きと恐怖の表情に染まるゲネロ。

「ゲネロ、てめえ…こんな奴ら使って俺の首を狙おうとしてたらしいな」
「おいてめえ、こんな奴らとはなんだ」
「ああ?てめえみたいな駆け出しの殺し屋なんざにやられるかよ」
「んだと、だったらここで今すぐ殺ってもいいんだぜ」
「ああもう!!こんな時にケンカするんじゃないわよ!…ドン・ゲネロ!!あなたのような卑劣な人は許さないわ!今すぐお縄につきなさい!!」

口喧嘩を始めたジーザスとダルクの間に割って入り、ルーナはびしっとゲネロを指差して実に正義ぶった(ルーナらしい)発言をする。しかし、その発言にはルークらが少々気になる点が…

「ってルーナ…お縄につくって…」
「バカじゃないのアンタ!殺すに決まってるじゃない」
「……う…」

ルークとホミリーから言われ、ルーナは口ごもる。わかっていたのだ。ダルクとジーザスは間違いなくゲネロを殺す。だが、ルーナはそれを回避しようとしていた。どんなことをしても、どんな悪人でも殺すのは怖い。ルーナは看守だとしても、一般人なのだから。そういった、マフィアの「けじめ」は恐ろしいと思えて仕方ない。
そんなルーナを見てジーザスは一歩前に出た。

「…悪いルーナ。これは俺達の世界の決まりだ。けじめをつけなくちゃならねえ」
「………わかってる。…ごめんなさい、余計な口出しをしたわ…」
「ひ、ひいっ、た、頼む、助けてくれ!」

この期に及んでゲネロは命乞いをしてくる。しかし、それを見逃しはしない。ジーザスが銃を抜き、ダルクがナイフを構えた。

「ルーナは見るな…ルーク、ホミリー、ルーナを頼む」
「……俺達をコケにした罪、てめえの命で償え」

部屋に銃声とナイフが風を切る音、そしてゲネロの肉体が倒れ落ちる音がした。



「で、これからお前らはどうするんだ?」

ゲネロの屋敷から出て来たジーザス達。ジーザスはダルクに話しかけた。

「…そうだな、とりあえずまたぶらぶらするぜ。よかったな、首がつながってよ」
「ジーザス〜〜」

するといきなりレンがジーザスに抱きついて上着ごしにさりげなく体をベタベタ触ってくる…。

「な、なんだよっお前…」
「いやあーさっきから気になってたんだよねぇ〜ジーザス…男前じゃん☆」
「…レンはいい男に目がないんだ」

呆れたようにダルクが言い放つ。あまりの光景にルーナ達は唖然。つまりレンは男色趣味…というやつだ。

「ねー僕もっとジーザスといたいなあーなんて」
「はあ!?」

ジーザスに抱きついたまま、レンが言い放った。ジーザスはレンを引き離そうと彼の頭を押しのけて素っ頓狂な声をあげた。

「だってさーこんなところでこんなことに巻き込まれたのも何かの縁だし、僕もっとジーザスに抱きついていたいよー」
「だからひっつくなって!」
「…そうね、屋敷でお茶でも飲んで…お話しない?」
「ルーナ!」

ルーナまでダルク達を屋敷に招く案を言い出した。ホミリーが手を組みながら明らかに不機嫌そうな顔をした。

「アンタねえ、何勝手に決めてんのよ!こいつらはジーザスを殺そうとしたのよ!」
「それはわかってる…でも彼らはやめてくれたわ。私、犯罪者を多く見てきたからわかるの。…彼らは、信用できる人間よ」
「さすがは『俺の』ルーナ…」

ルーナの手を取り、手の甲にちゅっとキスを落とすダルク。その姿にジーザスがレンを引きはがして詰め寄る。

「てめぇダルクふざけんな!ルーナに何しやがった!」
「ああ?別にお前のじゃねえだろが」
「まあまあ、とりあえずルーナの言う通り一度屋敷に帰った方がいいんじゃないかな」

ルークが二人をなだめ、一行はとりあえずオズボーンファミリーの屋敷に戻ることで決まった。そういえば、ジーザス達はパーティーから抜け出して来たのだ。おそらく、もうパーティーは終わっているだろう。すでに夜が明けようとしている。



屋敷に帰る頃には朝日が差し込み始めていて、半分寝ていたムイとカリブを起こして今までの事情を話す。

「はあ!?じゃあお前ら俺達が必死になって客をフォローしていた頃にゲネロのヤローを叩きのめしてたわけかよ!」

ムイの叫びが少し頭に響く。半分寝ぼけているので声の音量が調整できないらしい。

「で、そいつらまで連れて来たと」
「よろしくねぇ〜色黒のお兄さんもかっこいいねえ〜」
「……とりあえずもうオズボーンファミリーを狙う必要はねえ。また別の仕事を探すさ」
「……」

淡々と語るダルクを見つめるジーザス。ジーザスは先程の戦いで体質能力を使うダルクとレンのことを観察し、その腕前を見抜いていた。

(おそらく…俺じゃダルクに勝てない)

体質能力を使える殺し屋。何の能力も持たない自分では勝つことができないだろう。今後、いつ寝首をかかれるかわからない。敵になるのは避けたい。すると、ルーナが申し訳なさそうにダルクに問いかけた。

「ねえ、ダルク…もう今後も仕事でジーザス達を狙わないって約束してくれる…?」
「…そうだな、そういった仕事は断ってやる。ルーナのためにな。別にお前のためじゃねえぞ」
「てめえな……」

ルーナに対しては優しい態度だが、くるっとジーザスを見るダルクの表情は冷たい。やはり二人はとことん仲が悪いらしい。

「ルーナが危険な目にあった時はいつでも駆けつけるからな」
「僕もジーザスが危険な目にあったらすぐ駆けつけるよぉ〜」
「だから離れろって!!」

再びジーザスに抱きつくレン。そんな様子を若干苦笑いで見つめる仲間達。
そんな雰囲気のまま、ダルクとレンは屋敷を後にしていった。その後、ファミリーの幹部およびルーナ達は一晩の疲れを癒すように爆睡し、彼らが目覚めたのは夕方近くだった。


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