act.27 真実




「!」

ジーザスが異変を感じたのは、ルーナが誤った選択をしてから三日後。

(なんだ…この嫌な感じ…)

言葉には現しにくいが、遠くで何かが起こったのを感じた、という感覚。
ふと脳裏にルーナが浮かんだ。

(まさかルーナに何かあったとかじゃねえといいけど……)

もう自分の事等忘れているのだろうか。幸せになっているのだろうか。

(ルーナ………俺のことは忘れて…幸せに……)

すると、何やら執務室の外の廊下が騒がしい。
何やらバタバタと数人の足音が聞こえる。部下かと思い、ジーザスが俯いていた顔を上げた瞬間――。

「てめぇ!!!よくもルーナを危険な目にあわせたな!!!」
「!?ダルク!?」

勢い良く執務室の扉を蹴り飛ばしたのは、以前出会った殺し屋ダルクだった。
扉が半壊したが、そんなことはどうでもいいらしく、怒りの形相でダルクはジーザスにずんずんと近寄って、思いっきりぶん殴った。

「!!?なにしやがるてめぇ!!」
「よくも…よくもルーナを政府に売りやがったな!!今頃ルーナがどうなってるのかわかってんのか!!!」
「!?ルーナが…ルーナがどうした!」

遅れてムイやルーク達が追いかけてくる。しかし、怒り狂うダルクと、ルーナの名前が出た瞬間に顔つきが変わったジーザス二人に入っていけない。

「ルーナが政府に狙われてんのも知らねえで!!体質者はその力を兵器に転用できる…だから特に国家や要人に狙われるんだ!!それなのにてめえが何も考えずにルーナを帰したせいで……ルーナは今、政府の実験材料にされてるんだぞ!!」
「!?なんだと……」

幸せに暮らしていると信じていたルーナが、恐ろしい目にあっている……ジーザスの頭は一瞬冷たくなり、そしてすぐに怒りで煮えたぎった。

「なんでだ……なんでそんなことになったんだよ!」
「俺は殺し屋仲間の情報からそれを聞いて初めて知った……ヴェルヌ政府は長い事体質者を使って兵器を作り、他国に戦争ふっかけようとして実験を繰り返してたみてえだ。…体質者ってのは女が少ない。それに、体質者の子供や親類は体質者が生まれやすいんだと。現に俺の一族も何人か体質者がいる。奴ら、おそらくルーナを母体にして体質者を人工的に作るつもりだ。……チィッ、俺がついていれば!!」

ダルクは大きく舌打ちをした。彼もまた、ルーナを心より愛し、守りたいと思っている男だ。

「ルーナが……ルーナが危ない………ほうっておけねえっ…」

ジーザスは怒りに震え、今すぐヴェルヌ政府に殴り込みにいこうと黒烏を抜いた。するとそれを止めるルーク、ムイ。

「落ち着け、ジーザス!作戦を立てねえと!」
「そうだぜ、相手はお国だ!下手したらこっちがやられちまう」
「落ち着けるか!!こうしてる間にもルーナは…!」
「黙りなさい!!!」

一喝したのはホミリーだった。しん、と静まる一同。それほど、この気の強い彼女の言葉はよく響いた。

「いいこと。ルーナは奴らにとって大事な研究材料。殺しはしないわ。こっちは準備を整えて、ルーナを奪還しに行く。下手に相手を殲滅だとかは考えないこと。相手は政府…ルーナを奪い返したらすぐに逃げるのよ」
「ホミリー…」

そばで聞いていたカリブも賛同する。

「それ、俺も賛成だわ。なんたって強敵だろうが…あんたもその刀、完全に使いこなせてねえみたいだしな」
「……っ」

カリブの言う通りだった。ジーザスはまだ黒烏を使いこなせていない。毎日何度も素振りしているが、なにかピンと来ない。それなのに、先程は思わず黒烏を掴んで乗り込もうとしていた。持ち歩くことが当たり前にはなってきているが、もし戦闘になってもその刀で敵を倒せるかは分からない。

「……わかった。…だが、大人数でいけば奴らの思うつぼだ。限られた人数で行きたい…」
「俺は行くぜ。ルーナを助けるのは俺だ」

真っ先に名乗りを上げたのはダルクだった。彼が情報を仕入れて来たのだ。もちろんだろう。
「俺も行こう。ルーナを放っておけない」
「あの子にはもう一度説教しなくちゃならないわね」
「俺ももちろん!」
「俺様も!」
「……幹部全員か……」

結局、幹部全員が同行を希望した。だが、それではあまりにもリスクが高く、なによりブリタナを守る幹部がいない…。

「ブリタナのことは大丈夫でしょう。部下達が留守を守ってくれる」
「だが、ホミリー…」
「自分の部下を信用しなさいよ。私達、子供の頃から父さんやアーロンさんが自ら先陣に立ってるのを見て育って来たじゃない。…ルーナを助けたい思いは、皆一緒。それを背負ってるのが私達よ」
「……そうだな……よし…行こう、みんな。ルーナを助けに!」

ジーザスは自分の部下達を信じた。そして、仲間達を。ルーナを助ける為に……。



同じ頃、ヴェルヌの体質者研究所では…。

「素晴らしい…素晴らしいぞ…ルーナ・ブライアント!!」

研究室の一角でマクリーチが興奮しながら叫んでいた。

「これぞまさに体質者を使った兵器の礎!豊富なクロノによってほぼ永久的に体質能力を使いこなし、感情も無く、ただひたすらに敵を殲滅するヴェルヌ最強の兵器だ!」
「しかしマクリーチ博士、まだ彼女は実験段階に過ぎません。完全な兵器としては未完成です」
「かまわんよ、これで私の研究が正しいと結論づけられたものだろう?ああ、私の悲願が叶うよ……感謝しよう、ルーナ・ブライアント……兵器ナンバー0000『白雪(スノーホワイト)』」

マクリーチ達の前にはいくつもの管に繋がれ、冷たい表情の青いドレスを纏ったルーナがいた……いや、もうルーナではないのかもしれない。


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